筋肉を鍛えることは、認知症、うつ予防にも!
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世界最高レベルの長寿国、日本。
2017年3月に厚生労働省が発表した平均寿命で、日本人の平均寿命は女性が86.99歳、男性も80.75歳と80歳を超え、世界最高レベルの長寿国となっています。
その一方で、65歳以上の7人に1人、80歳以上になると5人に1人が認知症という調査結果※もあり、寝たきりや要介護の方も年々増えてきています。2025年には認知症700万人時代とも見込まれており、ただならぬ事態ではないでしょうか。
さらに認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も現在約400万人いると推計されており、65歳以上の4人に1人が認知症とその“予備軍”という、とても他人事とはしておけない現状です。
※厚生労働省調べ
筋トレは脳トレ!!認知症予防のために、今から鍛えよう!
認知症の発症・進行にも、筋肉を鍛えることが影響する!?
認知症とは、何らかの原因で脳神経細胞がダメージを受けたり変性したりすることで、記憶力や判断力、思考力などの認知機能が低下してしまった状態のことをいいます。その原因は非常に多岐にわたり約70種類の原因があると考えられています。さらに最近では超高齢化に伴い、単一の原因ではなく、複数の原因が複雑にからみあっている症例が非常に増えています。
一昔前は、約6割が皆さんおなじみのアルツハイマー型認知症、約2割が動脈硬化等で脳血管が障害されて生じる血管性認知症、そして約1割がパーキンソン症状をきたすレビー小体型認知症といわれていましたが、ここ最近では複雑多岐にわたる認知症患者が急増しているため、もはやこのような統計は意味をなさなくなってきました。
このあらゆる認知症の発症・進行にも、筋肉を鍛えることが影響してくるのです。代表的な認知症責任疾患
1 アルツハイマー型認知症 Alzheimer-Type Dementia ATD 2 レビー小体型認知症 Dementia with Lewy Bodies DLB 3 脳血管型認知症 Vascular-Type Dementia VTD 4 前頭側頭葉型変性症 Frontotemporal Lobar Degeneration FTLD 5 - a)
意味性認知症
Semantic Dementia SD 6 - b)
進行性非流暢性失語
Progressive Non-Fluent Aphasia PNFA 7 - c)
前頭側頭葉型認知症-ピック(ピック病)
Frontotemporal Dementia-Pick FTD-Pick 8 正常圧水頭症 Normal-Pressure Hydrocephalus NPH 9 神経原線維変化型老年期認知症 Senile Dementia of
the Neurofibrillary Tangle TypeSD-NFT 10 嗜銀顆粒性認知症 Argyrophilic Grain Dementia AGD 11 進行性核上性麻痺 Progressive Supranuclea Palsy PSP 12 大脳皮質基底核変性症 CorticoBasal Degeneration CBD 13 アルコール関連認知症 Alcohol Related Dementia ARD 14 糖尿病性認知症 Diabetes-related Dementia DRD 15 慢性硬膜下血腫 Chronic Subdural Hematoma CSH 16 甲状腺機能低下症 Hypothyroidism - 17 ビタミンB1欠乏症 Vitamin B1 Deficiency - 18 ビタミンB12欠乏症 Vitamin B12 Deficiency - 19 葉酸欠乏症 Folic Acid Deficiency - 20 脳腫瘍 Brain Tumor - - a)
脳神経と、筋肉の関係
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私たちが手や足など体を動かすためには、まず脳神経細胞が「体を動かして」と指令(電気信号)を出します(順行性)。その信号が脊髄神経を通じて目的とする筋肉に伝わり、筋肉の収縮が始まります。そして筋肉が動くと、今度は逆に筋肉から脳に感覚神経を通じて電気信号が送られて、痛みや疲れを感じています(逆行性)。
つまり筋肉を動かし続けることで、脳内の神経細胞からの情報伝達が、運動神経⇒感覚神経⇒運動神経⇒感覚神経と、繰り返し行われることになる。つまり脳神経細胞が活発に活動することとなり、脳のトレーニングになるのです。
適度な運動による筋力アップは完全無欠!
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また、有酸素運動を行うことで体内の血液が酸素で満たされます(酸素飽和度アップ)。すると当然、酸素リッチな血液が脳にも流れ込み、脳内の酸素が豊富になると、脳の神経細胞の活動性が向上し、またその神経細胞同士をつなげる働きをもつシナプスも活動が活発化し、細胞間のネットワークがとても密になります。すると、記憶力や集中力のアップなど脳パフォーマンスが向上し、認知症になるリスクが軽減するわけです。
認知症も初期の段階なら有酸素運動を行って、脳血流をアップさせ脳神経細胞を活性化することで、健全な状態に戻る可能性は十分にあると考えられています。何より認知症予防と脳の健康(ブレインヘルス)維持のためには、適度な運動による筋力アップは完全無欠なのです。
高い筋力レベルの人は、筋力レベルが低い人と比較して、軽度認知障害の進行リスクが48%減少しています。
筋力レベルの高い人は、筋力レベルの低い人と比べると、認知機能が低下する速度が遅いことがわかりますArch Neurol. 2009;66(11):1339-1344.
doi:10.1001/archneurol.2009.240.
うつや不眠対策にも、筋活が役に立つ
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うつ病が起こるメカニズムについては、明確に解明されているわけではありません。今までは、いわゆる「ココロの病」と称されてきた「うつ病」ですが、最近の脳科学研究の進歩によって、「うつ病」は明らかに脳機能障害であることがわかってきました。
脳内で分泌される神経伝達物質(NTM)の不足がうつ病の原因に大きく関わっています。NTMとはドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどの脳内ホルモンのことをいい、脳内ではメッセンジャーとして、情報伝達に大きな役割を果たしています。またこれらNTMは、互いにバランスを取りながら分泌量が厳密にコントロールされています。
その一つ、セロトニンは精神の安定を担う脳内物質であり、これが十分に分泌されることで心が安定し、ココロの健康(メンタルヘルス)を維持出来ます。運動不足が長期にわたるとセロトニンの分泌量が徐々に減少し、不安や悲しみといったストレスを感じやすくなり、常にストレス過多の状態に陥ります。さらに、運動とならんで脳の健康維持に必要不可欠な「睡眠」の質も悪くなるため、睡眠不足となり、疲れも取れにくくなります。また、運動不足が続くと全身の血行も悪くなり、新陳代謝が衰えていきます。こうなると脳のエネルギー不足が生じ、脳神経細胞の活動にも影響を与え(NTM分泌不足)、ますますストレスを感じやすくなるのです。
運動をすると、心地よい疲れを感じると共に、感情が安定します。運動の後は、なんだかすっきりと眠れたという経験がある方も多いのではないでしょうか?それがまさにセロトニンが適切に分泌された証拠なのです。
しっかり、筋肉を動かすことは、心の安定にもつながるのです。
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加齢にともない筋肉量が低下し、運動量が減少すると、さらに筋肉量が低下していき、老化に拍車がかかります。
同時に骨量も低下し、骨粗しょう症が進行してしまいます。体のバランス感覚も悪くなってくるので転倒しやすく、その上骨折もしやすいため、「寝たきり」になるリスクが上昇。そして寝たきりになることで、筋肉を使うことや、脳を使う機会も減り、さらに認知症リスクが上がっていくのです。
筋肉があるってすばらしい。

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●寝たきりになりにくい。 | ●起き上がるのが辛くなる。 |
●転ぶことも減り、転んでも骨折しにくい。 | ●よくつまずく、転ぶ。 |
●肥満になりにくい。 | ●筋肉量が少なく、脂肪が多い「サルコペニア肥満」になりやすくなる。 |
●認知症になりにくい。 | ●物忘れが多くなる。認知症のリスクが高まる |
●骨が強くなる。 | ●骨粗しょう症リスクが高まる |
●血糖値が安定する。 | ●生活習慣病にもなりやすい |

筋肉は、かけがえのない財産です。
脳も含めた他の臓器は、一度老化したら戻ることはありませんが、筋肉なら全年齢において鍛えることが可能です。
運動はブレインヘルスにとって必要不可欠であることを認識し、今から筋活をしっかりはじめることで、認知症になりにくい「脳ミソ」を手に入れましょう!!
【監修】 石黒 伸
医療法人アクア
アクアメディカルクリニック 理事長・院長

1976年名古屋市に生まれ。野口英世博士に憧れ医師を目指す。1995年東海高校卒業。2002年愛媛大学医学部を卒業し、泌尿器科外科医を目指す。2004年大阪大学大学院に国内留学するも、治療成績や論文内容を競い合い、患者に寄り添わない西洋医学一辺倒の現代医療に疑問を感じ2006年同大学院を中退。その後、救急医療をしながら海外を放浪し、インドネシア・バリ島における民族医学、フィンランドの高齢者医療や自然代替療法、イタリアの湧水医学やSPA医療などを学ぶうち医師として目指すべき方向が明確化してくる。
2011年アクアメディカルクリニックを開院。外来診療・在宅医療・代替療法(栄養療法・オーソモレキュラー療法)を同時に実践しながら、「病気になるのはもうやめよう」というスローガンを掲げ「新しい医のカタチ」の実現に尽力を続ける。一冊の本がきっかけで名古屋フォレストクリニック河野和彦医師と出会い認知症治療に覚醒。2013年「コウノメソッド実践医」として登録。他院で見放された重度の認知症・神経難病患者の在宅医療をする傍らコウノメソッドやオーソモレキュラー治療学の普及を目指し精力的に講演活動も行っている。